海外で働く社員がいる企業は、税金の取り扱いに注意が必要です。
近年、海外に住みながら日本企業の仕事をする人や、海外出張中にリモートワークを行う人が増えています。
こうした働き方について、2025年11月、OECD(経済協力開発機構)が国際課税に関する新しい解説を公表しました。
さらに、2026年9月30日には、その内容を収録した「OECDモデル租税条約」の最新版が発行されています。
今回は、海外リモートワークに伴う税務上の注意点をわかりやすく解説します。OECD
1.海外で働くだけで会社に税金がかかる?
例えば、日本企業の社員が、家族の事情でシンガポールに住みながら、日本本社の仕事を続けているとします。
社員は自宅のパソコンを使い、日本の取引先とオンライン会議を行っています。
この場合、社員本人の所得税だけでなく、日本企業にも現地で税金が発生する可能性があります。
その理由となるのが「恒久的施設(PE)」という考え方です。
PEとは、簡単にいうと、企業が海外で事業を行うための一定の拠点のことです。
一般に、租税条約では、海外にPEがある場合、その拠点に帰属する事業利益について現地で課税される仕組みが採用されています。
つまり、海外に支店や事務所を設立していなくても、社員の働き方によっては税務上の問題が生じる場合があるのです。
2.OECDはどのような考え方を示したのか?
今回のOECDの見直しでは、海外の自宅などで働く場合に、その場所が会社の事業拠点に該当するかどうかについて、判断の考え方が詳しく示されました。
特に重要なのは、社員が海外で働いているという事実だけで、直ちにPEになるわけではないという点です。
例えば、社員が個人的な事情で海外に滞在し、会社の事業上の必要性とは関係なくリモートワークをしている場合があります。
一方、会社が現地の顧客への営業活動を行うために、その社員を海外に配置している場合もあります。
この2つでは、税務上の判断が異なる可能性があります。
OECDは、海外で働く時間の割合や、その国で働く事業上の理由などを踏まえ、実態に応じて判断する考え方を示しています。OECD
3.日本企業にはどのような影響がある?
特に注意したいのは、海外勤務を認める際の社内ルールです。
例えば、社員から「海外に住みながら仕事を続けたい」という希望があったとします。
会社がこれを認める場合、勤務場所や業務内容を十分に確認しておくことが重要です。
現地の顧客との契約交渉や営業活動を継続的に行う場合には、単なる事務作業とは異なる税務上のリスクが生じる可能性があります。
また、PEが認定された場合には、現地での法人税申告などが必要になることも考えられます。
なお、今回のOECDの見直しは、日本の税法や各国との租税条約を一律に変更するものではありません。
実際の課税関係は、相手国の国内法や適用される租税条約に基づいて判断する必要があります。
4.企業が確認しておきたい3つのポイント
海外勤務やリモートワークを認めている企業は、次の点を確認しておきましょう。
① 海外で働く社員の勤務実態
どの国で、どのくらいの期間、どのような業務を行っているのかを把握します。
② 現地で行っている業務の内容
社内の事務作業なのか、営業活動や契約交渉などを行っているのかを確認します。
③ 海外勤務を認める際の社内手続き
海外勤務を希望する社員について、事前に人事部門と税務担当部門が確認できる仕組みを整えておくことが大切です。
まとめ
海外リモートワークは、企業にとって柔軟な働き方を実現する有効な手段です。
しかし、勤務する国や業務内容によっては、会社にも海外での納税義務が生じる可能性があります。
今回のOECDの見直しは、こうした問題を判断するうえで重要な参考になります。
海外勤務を認める際には、社員本人の税金だけでなく、会社側の税務リスクも確認することが大切です。
参考資料
情報確認日:2026年10月29日
1.OECD「Model Tax Convention on Income and on Capital 2025(Full Version)」
発行:OECD/2026年9月30日
2025年版OECDモデル租税条約の全文です。海外リモートワークとPEの関係について、第5条の解説で確認できます。
2.OECD「The 2025 Update to the OECD Model Tax Convention」
発行:OECD/2025年11月19日
海外の自宅などで勤務する場合のPE判定について、見直しの内容と背景を説明しています。
3.国税庁「No.2883 恒久的施設(PE)」
発行:国税庁/令和8年4月1日現在法令等
日本の税法におけるPEの定義や、租税条約との関係について確認できます。
※本記事は一般的な税務情報の提供を目的としています。個別の課税関係については、勤務国の税制、租税条約、実際の業務内容などを踏まえた検討が必要です。

